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「まあ、いいんだけどさ。春菜ちゃんが黙っていないんじゃないか?」
「ん、なんで春菜が出てくるんだ?」
なぜここで春菜の名前が。
啓太の言葉の意味するところをなんとか掴もうと、俺が割と真剣に悩んでいたら啓太はさも呆れたように肩を竦めていた。
なんだよ、俺にも解りやすいように説明してくれたまえ、なんて思っていると――
「なになに、ボクを呼んだ?」
「――ッ!」
まるで計ったかのようなタイミングで溌剌な声が背後から飛んで来た。俺が飛び上がらんまでに驚いたのは言わずもがな、あろうことか啓太の表情は愉悦に満ちている。
あらかじめこいつの接近に気付いていたなら教えろよバカ野郎。
この声の主は紛う方なし、件の幼なじみ桐生春菜(きりゅうはるな)。柔らかな黒髪のショートボブを揺らしながら、シャープな輪郭に嵌る鳶色の瞳や口元を余すことなく端麗な微笑みに染めていた。
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