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乾いた風が細い木々を揺らす。
辺りは広く、果てしない草原が広がっている。
茶色に緑、そして、遥か遠くでそれと切り替わるように続く、青。
さわさわ さわさわ
草の揺れる音が、心地よく音を奏でる。
他に音はない。
動く何かの姿も。
それは、金の髪を揺らし堂々たる姿でそこを歩く彼に、誰もが怯え隠れているからかもしれない。
群れからはぐれた彼は一人だった。
それでも生きていくには狩りをしなければならない。
だが、一人で行う狩りは中々に過酷だ。獲物にありつけない日は濁った川で喉を潤す。時には肉など殆どない誰かのおこぼれすら口にした。
必死に生きて、生きて。
ふと、寂しくなった。
これはいつまで続くのかと。
疲れた。
彼の中に残ったのは、そんな想い。
ただその想いだけで彼はあてもなく足を動かす。
歩いて歩いて。
一体どれ程歩き続けたのか。
一面に生えた草がポツリ、ポツリとその数を減らした頃。
漸く彼は、その歩みを止めた。
足許だけを見つめ続けた琥珀色の眼が、ゆっくりと持ち上げられる。
その眼前にあるのは、大地の切れ目。
深く広く大地を裂いた、大きな谷だった。
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