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その日は曇りだった。
顔を見合わす誰もが辛気臭い表情を露わにし、口を開いては、決まりに決まった儀礼的文句を掛けてくるばかり。
「この度はご愁傷様」「可哀想に、まだこんなに小さな子供を残して」「本当に残念だよ」
そんな陰気なオーラは空さえも鼠色に染めてしまったのか、俺はそのくずつき模様を、黒い喪服に纏われた人々の中で、母親の手に引かれながら見つめていた。
曇天というのだろうか。どんよりと澱んだ空は、ファミレスで食べた肉厚ジューシーステーキよりも分厚い綿あめで覆われ、目の前に広がる色をモノクロに染め上げていった。
「ねぇ、お母さん……お父さんは、どうしていなくなったの?」
急に、寂しくなったのかもしれない。途端に自身を襲った疎外感が身を震わせ、誰かの温もりを感じたかったのだろう。
気が付けば俺は、手を引く母に話しかけていた。
「……お父さんはね、みんなを幸せにしてくれたから、神様が天国に連れて行ってくれたの」
「みんなって、……誰?」
みんなって誰だ。あいつはそんな大層な事をしていたのか。他人に幸せを撒いて、俺達家族には不幸しか招かなかったあいつが。ふざけんな。だったら俺は、どうしてあんなに苦しい思いをしたんだ。
「色んな人。終夜の知らない人とか、私の知らない人とか、色んな人の支えになって、助けてきたのよ」
「ふぅん……そっかぁ。でも、どうして彩陽は助けてあげないの? 今日も彩陽は、病院で一人なんだ。彩陽も助けてあげてよ」
妹はいつも独りだった。あの無機質で何もない部屋の中、神様さえも持て余す暇な時間をずっと独りで過ごしていたんだ。学校へも行けず、友達もできず、俺と自由に出かけることさえも出来ない。
そんな彩陽を、あいつはどうして助けなかった。どうして籠の中に閉じ込めた。
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