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「今日も日が沈むな~。」
夕暮れに染まる山々が綺麗で烏が山に帰っていく。
普段は札幌という都会で暮らし、夜に働いている私にとって何日も人に会わず自然に囲まれる日々なんて地元で暮らしていた時以来だった。
烏の鳴き声が唯一私が一人ではないという証だった。
「秀だったら野草やら動物を狩ったりして食べ物の心配ないんだろうな~。」
中学生の夏休みを思い出す。
無人島で遭難した私達は秀の知識と運動能力に救われた。
本当に出来ない事なんてあるのかしら。
あれで愛想があれば完璧なんだろうけどな。
「今すぐ来てくれたら奢ってあげるから、早く来なさいよ!この……甲斐性なし!」
私は夕暮れの空に向かっておもいっきり叫んだ。
自然と涙が溢れてくる。
「今の話は本当だろうな?それと誰が甲斐性なしだ。」
夕日を背に見慣れた人影が立っていた。
長い銀髪、くわえ煙草、鋭さの中にも優しさがある目付き。
「…………っ!!」
おもわず抱き付いていた。
煙草の臭いが染み付いた服に安心感を覚え、幾度となく私達を救ってくれた手が私の頭を優しく撫でてくれた。
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