2008年9月4日 北海道星凪村 歌声

2/7
前へ
/24ページ
次へ
〈旧星凪村 午後7時〉 すっかり日も暮れた夜の中、僕達は食事の後片付けをしていた。 夢乃ちゃんは姫の服に着替え姫野さんの治療を受けていた。 「さてと……」 徐に秀君は立ち上がり真っ暗な村の中へと踏み出そうとしていた。 「何処に行くの?」 「神社だ。歌声の正体ぐらいは掴んでおきたいからな。」 闇の中へと灯りも点けずに秀君は歩いて行った。 夢乃ちゃんを保護できたんだから、このまま立ち去ればいいのに。 「何で?って顔してるね~。このまま立ち去ればいいのにって思ってるでしょ~。」 治療を終えた姫野さんがタバコをくわえながら近付いて来た。 この二人には読心術でも使えるんだろうか? ……使えても不思議じゃないけど…… 「確かに、このまま帰るのは簡単さ~。でもね、何れお嬢はまた狙われるよ~。元を断つ必要があるのさね~。それに……」 姫と麻美ちゃんと一緒に片付けをしているコロポックルを横目に見た。 「このまま帰ったら、あの子は無事じゃないでしょうね~。〈霊力〉が強い訳でもないからね~。」 フゥーと吐く白い煙が夜の闇へと消えていく。 「……智は〈左腕〉を狙われていたんだよね?なら、夢乃ちゃんも〈何処か〉を狙われているのかな?」 「おそらくはね~。てか、皆がそうだと思うよ~。勿論、3人も例外じゃないと思うよ~。流石に私と秀人が常に一緒に居たら下手に手は出せないと思うけど、要心しておきなよ~。」 僕や麻美ちゃん、姫も狙われている…… いったい何でなんだろう。 僕達の共通点は幼い頃からの友人である事ぐらいだ。 生まれ育った環境は一緒でも、それも高校までだ。 そらからの4年間は皆バラバラの人生を歩んでいる。 今更になって狙われる理由が解らなかった。 「……私と秀人はさ、おおよその答えは出てるんだよ~。でも、それは私から言うことじゃないからね~。その内秀人が話してくれると思うから気長に待ってなよ~。」 立ち上がり木の枝で地面に何やら線を引き始める姫野さん。 テント周辺を取り囲むように円を描き、中にも何かを描いていた。 描き終えると中心に立ち、手を合わせ何かを口ずさむ。 「……………………ほいさっさ~。」 一瞬、眩い光が円を取り囲むが直ぐに消えた。 「……結界?」 「念の為ね~。トイレに行きたい人は言ってね~。私も着いて行くから~。トマト君は……秀人が戻って来るまで我慢してね~。」
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加