2008年9月4日 北海道星凪村 歌声

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俺は再び神社まで足を運んだ。 すっかり日が暮れた境内からは虫の声一つもしない。 聞こえるのは俺の砂利を踏む足音のみである。 「……こんな場所でよくも精神が持ったものだ。」 伊達に夢乃も俺と共に怪異に何度も立ち会っただけあり、自然と鍛えられたのだろう。 本来ならば、こんな場所に閉じ込められて変な歌まで聞こえてきたら発狂してしまうだろうな。 神社の境内を一通り見て回るも怪しい物は無い。 しかし僅かに残された〈霊気〉がこの村に何かが存在している事を知らせている。 俺は再び石階段まで戻ると、そこに腰を下ろしタバコに火を点けた。 眼下には烈人達がキャンプしている灯りが見える。 見上げれば満点の星空が俺を向かえてくれた。 星空に俺の口から発せられた煙が上っていく。 そして俺は其処で違和感を感じた。 (……何だ?) 俺は立ち上がり懐中電灯を上空へと向ける。 当然光は途中で途切れ暗闇へ飲み込まれる。 俺は灯りを上に向けたまま再び境内へと足を運んだ。 鳥居と本堂の中心辺りまで来た俺は先程の違和感に気付いた。 夢乃を探しに来た時には気付かなかったが、こんな物があるとはな……… 石階段を登った人間を迎え入れるかのように佇む古びた鳥居。 それは何処の神社にもある物だろうが、その鳥居には他の鳥居と違い、ある物が備え付けられていた。 俺はその物に向けて懐中電灯の光を当てる。 すると光は俺に向かって反射した。 「何で鳥居に鏡なんか付いてるんだ?」 鳥居に備え付けられていた丸い鏡。 俺がライトを動かすと反射している光も角度を変えて光り出す。 それを何度か繰り返す内に俺はこの神社の秘密に辿り着く事が出来た。 「………成る程な。人間って生き物は秘密を様々な方法で隠すからな。」 反射した光が狛犬に当たると呼応するかのように石畳が変化した。 突如現れた地下への入り口。 其処はまるで地獄への入り口のように静かに佇んでおり、深い闇だけが存在していた。 「………さてと、行きますか。」 俺は首を何度か回すと現れた闇の中へと進んで行く。 そして其処は俺が想像していたよりも悲惨な場所でもあったのだ。
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