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「……歌か?だが、一体何処から?」
微かに耳に届く〈とおりゃんせ〉の歌。
こんな地下深く閉ざされた空間で聞こえる歌の歌い手は当然生きている者の仕業ではない。
この村に来る道中耳にした歌と同じ声の持ち主は今、俺の近くに居る筈だ。
俺は目を閉じ耳を澄ませてみる。
幸か不幸か俺の嗅覚は先程の悪臭で麻痺しており、その分聴覚が鋭くなっている。
「……下か?」
俺は喰わえていたタバコを地面に落とす。
するとタバコの煙は床の隙間に飲み込まれて行く。
さらに地下に空間が存在する証拠だ。
ならば何処かに下へ降りる階段か何かがある筈だが、そんな物は見当たらない。
開かなかった扉の向こうにある可能性も大だが先程の事もある。
隠し階段が何処かの部屋に存在するのか?
廊下に並ぶ個室は左右に6部屋ずつ存在する。
何れの部屋も間取りは同じで、どの部屋にも無数の棚と散らばった書類が点在していた。
扉にはそれぞれ干支の漢字が掘られており、おそらくは部屋番のようなものだろう。
そんな折、辺りを照らしていると干支の漢字の下に小さく文字が掘られていた。
〈東ノ神二光ヲ、西ノ神二火ヲ、南ノ神二水ヲ、サスレバ北ノ神道ヲ出ル〉
暗号か何かか?だが、生憎この手のものは得意でな。
こんな子供騙しが俺に通じるわけがない。
「干支の中で東の神は〈辰〉だな。」
方角を司る四神の一体である青龍が東の神って訳だろ?
なら、この中で当てはまるのは〈辰〉しかいない。
俺は〈辰〉と彫られた文字に懐中電灯の光を当てた。
すると文字が反転し龍の絵が現れる。
そして絵からは淡い光が発せられ、地面を照していた。
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