それは地底の物語

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「う、うん。そうなんだ」 「なら、私達のところに来たらいいよ!」 爛々と、眼に星が瞬いているように見えるくらいうれしそうにそう言った。 「え?」 「ね? ほら、それがいいよー! おしゃべりとかいっぱいしよ?」 「そ、それは嬉しいけど、こいしちゃん。さとりは大丈夫なのか?」 「大丈夫だよー。お姉ちゃんもお兄ちゃんのこと大好きだから!」 「…………戌井さん……?」 こいしの向こう側にいる早苗からの威圧感が、徐々に殺気へとシフトしているように見える。 というか、仮にも巫女なのだから、それなりに清くあるべきではないだろうか。 「……お兄さん。どうかしましたか?」 「あ、さとり」 「お姉ちゃん! しばらくの間お兄ちゃん泊まらせてもいいよね!?」 こいしの申し出にどう対応していいものか迷っていると、脱衣所から出てきたさとりが春良達の元へやってきた。 こいしと同様、かすかに体からは湯気が浮かび、頬も若干赤く、小さいなりに色っぽく見える。 「……なるほど。神社の改装で、しばらく宿無しということですか」 「あ、貴方も覚りなんですか?」 「はい。東風谷早苗さん。貴方のところの神様には、お世話になりました」 「そんなのどうでもいいよー! ねぇ、大丈夫でしょ!?」 ぱたぱたと、春良から離れることはせず、足だけを動かしてさとりに吠える。 その様子を見て、さとりは一息だけ漏らした。 「……そんなの、駄目に決まっているじゃない。そもそも、地上と地底の交流すら許されているものではないのよ」 ぴしゃりと言い放つ。 こういうところではやはり主と言うべきか、公私をきちんとわきまえている。 「…………さとり?」 「……お姉ちゃん、お兄ちゃんの服つかんでる」 「あ……っ。こ、これは、その……!」 と、思いきや。 あり得ないくらいに自然な動きで春良の服の裾を引っ張っていたさとりだったが、指摘されるとすぐにその手を離した。 顔は真っ赤で、説得力は皆無だ。
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