拾った金

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「しかしな・・・」  最初、札束を見て笑っていたY氏であったが、少し経つと冷静になった。  無職の自分が、急にこんな大金を手にしたとなると疑われるのではないか。そんな現実的な問題を直面した。金が入ったからといって、馬鹿な使い方をすれば、税務署に怪しまれてしまう。調べられでもしたら、拾った金、つまり不当に手に入れた金を勝手に使ったことなる。発覚すれば、間違いなく捕まる。捕まらない為には、一気に使わず消費は長期的に考え、少しずつ使っていった方がいいかもしれない。  Y氏は鞄のファスナーを閉めると、鞄を持って銀行のATMに向かうことにした。一度には入れず、数回に分けて預ける、もしくは入金する。全ての金を入金したら、改めて使えばいい。鞄はゴミとして処分すれば、一応の証拠は無くすことができる。  Y氏は落ち着き鞄を持って出掛けようとした。ところが、一つ計算違いがあった。最初、鞄を持った時は興奮していたので、それほど重くは感じられなかった。だが、改めて持ってみると結構な重量があった。それも仕方ない、鞄には札束が詰まっている。一枚一枚は軽くても、集まると重い。一億近くあるとしても、約五〇キロの重さだ。米俵とほぼ同じ重さである。  足下も覚束ずフラついている。何度も転びそうになりながらも、倒れないように慎重に歩くY氏であったが、 「ああ!」  一瞬の気の緩みが、彼を転ばせた。しかも、運が悪いことに鞄を手放してしまった。放り出された鞄は目の前の坂道に飛び出すと、まるで、何かに操られているかのように坂を転がり始めた。  何ともマヌケな光景だった。昔話のおむすびころりんではあるまいし、鞄が転がり、それをY氏が追いかけることになるとは。だが、Y氏にとっては必死であった。これからの生活に必要な金だ。そう簡単に手放す訳にもいかない。  転がる鞄を追いかけ坂道を駆けるY氏。 「この!」  坂道という不安定な場所で鞄に必死になって手を伸ばした。何度も持ち手を掴み損ねて、その度に態勢が崩れそうになる。  手を伸ばすこと五回目。Y氏はやっと鞄の持ち手を掴んだ。 「と、とっとと・・・」
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