拾った金

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「患者の容態はどうかね?」 「意識はまだ戻りません」  ベッドに寝かされたY氏の脳波を確認しながら看護士の女性は医者に報告した。医者は、Y氏のカルテに目を通しながら唸るように言った。 「全身打撲に、骨折、片足切断、高熱、脳震盪(のうしんとう)。全く、彼が何をしたというのだ」  医者はあまりにも不幸なY氏を見て溜め息をついた。どこの世の中に、ここまで不幸な人間がいるだろうか。 「水道局の職員の話によりますと、彼は相当長い距離を流されたようです」 「一応、水道局の方から見舞金はきたものの、全然、足りない」  病院に担ぎ込まれた時、Y氏の容態は最悪だった。下水を流されている間に感染症にも罹ったらしく、予断を許さなかった。緊急手術を通して、一命はどうにか取り留めはしたが、意識はなくいわゆる、植物人間の状態となってしまった。  Y氏の生命を維持する為には金が必要だった。医者も慈善事業としてやっているのではない。 「幸い、彼が肌身離さず持っていた鞄。その中に現金が入っていたからよかったもの」  医者は洗浄された鞄に入った大金を見て言った。Y氏が使おうと思っていた鞄いっぱいの札束は全て、彼の医療費に充てられることになったのは言うまでもない。
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