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「いつもありがとうございますぅ」
瑠奈ちゃんも今時の子にしては礼儀正しいなって思う。
私なんて送ってもらうのが当たり前みたいになってて、最近お礼を言った覚えなんてない。
私達は揃って後部座席に乗り込んだ。
「これぐらいしないとこんな場所までバイトに来てくれる子いなくなっちゃうからね」
野上さんはエンジンをかけながら前を向いたまま言う。
「えー、そんなこと全然ないですっ。お店は素敵だし店長は優しいしっ」
「ね、萌愛さん」と同意を求められ、「そうだね」とうなずく。
実際お世辞じゃなく野上さんは、私達にも健太郎にも分け隔てなく優しい。
あのお店のオーナーに相応しい、穏やかな空気を持った人だった。
「野上さんっていくつですかぁ」
「32になるよ」
「そういや俺、瑠奈ちゃんの倍近く生きてることになるなぁ」と野上さんは困ったように笑った。
「瑠奈ちゃんから見たら俺なんか完璧おじさんだな」
「そんなことありませんよぉ。野上さんが独身だったら良かったのにぃ」
私は窓の外を見ながら二人の会話を聞いて苦笑した。
瑠奈ちゃんはなんていうか世渡り上手だ。
実際は野上さんが独身だったからって健太郎しか興味ないくせに。
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