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顔をしかめて言う視界の横に、私をうらやましそうに見つめる瑠奈ちゃんが映って、ハッとした。
「瑠奈ちゃん乗せてってもらったら?」
瑠奈ちゃんが「え、」と動揺する。
「萌愛さん、結局一回も乗ってないっすねー」
健太郎、流すなよ。
「バイク怖いもん。健太郎飛ばしそうだし」
瞬時に悲しそうな目になる瑠奈ちゃんに、悪いことした気持ちになって、ジロリと健太郎を睨みながら言った。
この一年、何度か健太郎は私の送り役を買って出てくれたけど、私はそれをことごとく断ってきたのだった。
べつに健太郎のバイクに乗るのが嫌な訳じゃない。
ただ、私にはその必要がなかったってだけで――…、
「おまたせ」
裏口から黒い前掛けをしたままの野上さんが、車のキーをチャラチャラと指元で揺らしながら登場した。
私は車の免許を持ってるけど車を持ってる訳じゃない。
親の車が空いてるときに借りるくらいしか車で行動するチャンスはない。
大学は電車、バイトにはバスで通ってる。
このバスっていうのがこんなへんぴな場所にカフェがあるせいで本数が少なく、こんな風に半端な時間にバイトが終わったりすると帰るバスがなかったりする。
そんな時はいつも野上さんが近くの駅まで送ってくれる。
家まで送ってもらったことも数知れず。
だからわざわざ健太郎のバイクに乗せてもらう機会がなかった。
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