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おれは 親父のように なりたくない。
親父の事は 誇りに思っているし 誰よりも尊敬し 信じていた…
それだけに ショックも大きかった。
「あんた 霧生さんの息子なんでしょ?
本当は この部に入りたくて ウズウズしてるとか」
「いえ ぜんぜん」
「あんたねー! 少しは 悩みなさいよ!!」
香澄さんは 机を力強く叩き 身を乗り出した。
「あんた!! 本当は 今でも 探偵になりたいって 思ってるんじゃないの?!
そりゃあ… 霧生さんが あんなことになって ショックなのは 分かるけどさ…」
香澄さんは うつ向き 机からゆっくりと 手を離し 後ろを向いた。
「それじゃ いつまで経っても 前に進めないじゃない……!!」
「おねぇちゃん…」
香澄さんは 悠哉くんの胸に顔を埋めて 泣いていた……
どうして この人たちは こんなにも 必死 なんだろう…
おれが悩んでいると 高山さんが 申し訳なさそうな表情を浮かべ 小声で耳打ちした。
「今日と明日で 部員が5人集まらなかったら 廃部になるの」
「―そんな…!?」
「だから どうしても あなたを入部させたかったの……ごめんなさい」
高山さんは 深々と頭を下げた。
机に 水滴が 一つ 二つ ポタポタと落ちてきた。
だから この二人は こんなにも一生懸命に おれを入部させようとしていたのか……
それなのに おれは 自分の事ばかりで 相手が どんな気持で言っていたのか 考えもしなかった…
「霧生先生の子供のあなたならって思ったんだけど もう いいわ。
無理強いしたって 仕方ないし…」
高山さんは いつもの 明るい表情とは裏腹に 儚げな笑顔で微笑んだ。
目の端には 涙の跡がみてとれた。
「ちょっと 待ってください」
おれに 出来ることをしよう…
過去に囚われず 新しい一歩を踏み出して…
そりゃあ 親父のしたことは 許される事では ないけれど おれは 親父とは違う。
おれは 周りの人を 大切な人たちを 悲しませたりしない。
おれに出来る事…それは―
「おれは 『入らない』とは 言ってませんよ」
『“今”を 生きていく』
と いうこと。
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