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傷つかない為の自己防衛なのか、とりあえず感情が押し寄せてくる前に俺はこの場から逃げたくなって返された指輪のケースを掴み、彼女に背を向けた。
いつもなら玄関先まで見送ってくれるのに今日ばかりは状況が状況だからなのか彼女は俺の後を付いてくることもない。
玄関のドアを開ける前に彼女の方を振り返ってみると俯いたまま部屋で肩を震わせていた。
そんな彼女の姿はやけに小さく儚げで、なぜか自分が悪い事をしてしまったかのような感覚に陥る。
彼女の側に駆け寄り抱きしめてやりたい衝動に駆られるも、それはすでに俺の役目ではなく、そんな事は余計に彼女を追い詰めることになる。
ああ、好きなんだな…どうしようもなく、彼女が。
そんな思いに改めて気付かされ、胸が痛む。
こんなことされてんのに…俺も大概バカな男だ。
自嘲的な笑みがこぼれ、俺は彼女の部屋のドアを開けた。
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返された指輪を橋の上から川に投げるなんて、そんなドラマみたいな事が俺に出来るわけもなく、指輪のケースはなんとなく部屋に放置したままだ。
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