雨のち晴れ

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『どうして一言、相談しなかったのだ』 眉をひそめる照玄に、倫広は頷いた。 「和尚を驚かせたかったんですよ」 『私を?』 「用意出来なかったものが、用意出来ていたら、照玄和尚もカヨ子さんも、喜ぶと思ったんです。僕が出来る供養の手伝いといったら、それくらいしかないもんですから」 力の抜けた声に、『馬鹿もの』と、照玄は小さく呟き、顔を背けた。 その目が、微かに濡れている。 「心配をおかけしてすみませんでした。わざわざ、山にまで来て貰ってしまって」 『何を言っておる。私は山になど行っておらんよ。ただ、天巌寺にいたら連絡を受け、ここに駆け付けただけだ』 そう言って、照玄は病室のドアに向かって歩いていった。 『とにかく、意識が戻って良かった。私は通夜の準備に戻るぞ。お主は、今はゆっくりと休みなさい。治ったら、その分修行が待っているからな』 「はい」と、短く返事をすると、照玄はそのまま出ていった。 .
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