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「何も起きなきゃいいって...どうしてです?」
「そうか、知らないんだね」と、トヨは頷いた。
「この子はね。どうしてだか、奇妙な力を持っていてね」
「ダイコクが...ですか?」
目を細めて寝転ぶダイコクに、目線を移した。
老猫には珍しいほど毛づやはいいが、特別変わった猫には思えない。
「この子が境内で毛づくろいをすると、決まって不幸の知らせが来たりするのさ。まるで、死者の魂を迎える為に、身なりを整えているかのようにね」
思わず、ほうきを落としそうになった。
いくらお寺に住みついてる猫だとはいえ、境内で毛づくろいをしたら、不幸の知らせがくるなど信じられる訳がない。
冗談ですよね?...と、言おうとしたのだが、トヨの真剣な表情に、思わず言葉を飲み込んだ。
「ちょっと様子を見てくるよ。悪いけど、水桶を戻しておいてくれるかい」
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