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「えぇ。構いませんけど」
「それじゃお願いね」と、トヨは母屋に向かって歩き出した。
天巌寺は、本堂と母屋が細長い廊下で繋がれている。
主に、受付や来客、お手洗いの際には、応接室もある母屋に上がって貰うのだが、トヨが向かったのは別の理由だろう。
母屋には、黒い電話が設置されている。今時少なくなったダイヤル式の古い電話だ。
天巌寺の番号が設定された、唯一の電話がそれになる。
つまり、誰かに不幸があった際には、その黒い電話が鳴るのだ。
水撒きをやめてまで、戻ることはないだろうに...と、思いながらも気になった僕は、急いで竹ぼうきと水桶を戻すと、追いかけるように母屋に向かって走り出した。
引き戸を開けて中を覗くと、既にトヨは座布団を敷き、電話の前に座り込んでいた。
本気で電話が掛かってくると思っているようだ。
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