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「こんなことになるなら、ウォレも目隠し取っちまえばよかった」
「同感だな」
生首拳の意見に、生首速人が同意する。
今更何を言ったところで後の祭りでしかない。今頃きずな達は海でキャッキャウフフと楽しく遊んでいることであろう。その間大介達は、ここで晒し首を演じる他ないのだ。
そんな悲しい現実に、一筋の可能性が射し込む。
人の気配が近付いてきたのだ。それが知り合いなのか他人なのか、大人なのか子どもなのか、男なのか女なのかもわからない。しかし、これはチャンスである。
「あの! 何処のどなたか存じませんが、ここから出してはいただけませんでしょうか?」
大介が丁重な言葉で懇願する。が、懇願された者は何も言わずにその場から遠退いていった。
「……駄目か」と、項垂れる大介。
「まだ希望はあるさ。あるよ。あると信じよう」
「そうだな……ん?」
ここでまたもや近付いてきた人の気配。しかも、今度は複数人のようだ。
「大丈夫ですか? 今助けますから」
聞こえてきたのは女性の声。おそらく、先程何も言わずに立ち去った人物が応援を呼んできてくれたのだろう。
そうして彼らは、炎天下での晒し首から復活を遂げた。砂の重みから解放された体をほぐしつつ、大介は目隠しを取りながら礼を述べた。
「いやぁ、助かった。ありがとうございました」
「いえ。困った人を助けるのは当然のことです」
凛々しい台詞を言ってのけた女性は、大介達より少し年上のお姉さんであった。短い黒髪で左頬には古傷があり、細いながらもしっかりと筋肉が付いている肉体は黒いビキニを纏っていた。
その傍らにいるのは、小学生くらいの男の子。片手にはペンとメモ帳を持っている。
――この二人、何処かで見た組み合わせである。
「……あっ!」
「!? 貴様ッ!」
二人はほぼ同時に気付き、指を差し合う。
「フェイルの鎧女!」
「飛火夏虫! ここで何をしている!」
大介達を助けたのは、桜ランク暗殺組織・フェイルに所属する高井アキラと見原新であった。アキラに気絶させられた過去のある拳は「ひいぃ!」と情けない声を上げて速人の後ろに隠れる。
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