―其ノ壱―

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 アキラは瞬時に武装することが可能な言技“堅を被り鋭を執る”を発現し、右手に西洋の剣を召喚して距離を取った。 「ここであったが百年目! 今こそあの時の決闘の決着をつけてくれる!」 「おい落ち着け! 大体、今俺はフェイルの暗殺対象じゃねーはずだろ!?」 「そんなことは関係ない! これは私個人の意思だ!」 「だからって、こんな人の多いところで始める気かよ!」  痛いところを突かれたアキラは、そっと目を周囲に移す。浜辺で剣を構えている彼女は、かなり注目の的にされていた。隣に立つ新も「落ち着け」と書いたメモ帳のページをアキラに見せている。  少し熱くなり過ぎたと反省し、彼女は剣を消滅させた。 「つーか、フェイルさんこそ何でこんなところにいんの?」  尋ねたのは理将。相手が女性だからなのか、いつものギャル男的なノリで平然と話しかけている。 「夏休みだ」  夏休みだった。 「え? フェイルに夏休みとかあんの!?」 「当たり前だ。有給もあるぞ」  語るアキラは、何故か得意気で腰に手を当てている。 「そういうもんなのか……だがまぁ、アレだな」大介を始めとする男子一同は、ニヤッといやらしい笑みを見せた。「結構大胆な水着着てますな」  ここで今の自分が中々に開放的な格好をしていることを思い出したアキラは、赤面し手で胸元を隠す。そんな彼女を「良いですなぁ」「堪りませんなぁ」と言って凝視し続ける男共に対し、アキラの堪忍袋の尾が切れた。 言技による西洋甲冑の完全武装で水着姿を隠し、手元に巨大な斧を召喚する。ヘラヘラしていた大介達の顔は、見る見る青ざめていく。 「どうだ飛火夏虫、スイカ割りでもしないか?」 「いやー、スイカ持ってねーんだけど」 「では仕方ない」アキラが斧を振り被る。「貴様らの頭をスイカに見立てるとしよう!」  悲鳴を上げて逃げ回る男達と、それを追い回す西洋甲冑。奇妙な光景を傍観している新は、言葉を話せない代わりに身に付けた速筆でメモ帳に言葉を書き出した。 「楽しそうだね、アキラ」と。
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