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◇
「……どうだ社木。あの女まだいるか?」
「いや。どうやら逃げ切れたようだね。ようだよ。ようだとも」
アキラから逃げるために人の多い浜辺からかなり離れた岩場までやってきた二人は、そこで身を隠しアキラを撒くことに成功した。理将、拳、速人とは、どうやら途中ではぐれてしまったようである。
「しかし参ったな。ケータイは鞄の中だから合流できねーぞ」
「文明の利器に頼り切った人間は、こういう時には無力になるものさ」
ハハハと笑うシャギーであったが、笑っている暇などない。今日は女子の水着姿を見ることのできるまたとない機会なのだ。折角生き埋め地獄から脱出できたのだから、一刻も早く女子達と合流したいところである。
「とにかく、人のいる方へ戻ろう。夏の海に野郎と二人きりなんて虚し過ぎるぞ」
「言えてるね。言えてるよ。言えてます」
ということで、二人は元の浜辺を目指し歩き始めた。無言で黙々と歩くのもつまらないので、大介が適当に話題を振ってみる。
「その後、村雲とは進展があったのか?」
「お察しの通り、現状維持だよ。今日も果たして水着姿を拝ませてもらえるかどうか」
深い溜息が砂浜に落ち、それを波が攫っていく。
「そういうキミはどうなんだい?」次はシャギーの番である。「硯川さんとは進展があったのかな?」
「だからさ、俺と叶はそういう関係じゃねーんだよ」
「それはキミが硯川さんとそういう関係になることを望まないということかい?」
「俺が望む望まない以前に、叶の方にはそんなつもり一切ないだろ」
「そうかな。そうかい。そうだろうか? 僕の目には、キミに結構好意を寄せているように見えるけどね」
大介が歩みを止めた。茹ダコのような顔で「ちょっ、おまっ、え? でも」と動揺しまくっている。
「それはその……か、叶が俺のこと好きってことか?」
「知らないよ。ただの個人的な意見さ」
「いや、実を言うと前々からひょっとしてアピールされてるんじゃねーかなと思うことはあったんだよ。でも、それは俺の自意識過剰だろうし、叶には天然なところもあるから深い意味はないだろうと……」
「なら、そうかもしれないね」
シャギーは中々に無責任であった。
「お前なぁ、人を散々弄んでおいて」
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