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「仕方ないさ。硯川さんの気持ちは硯川さんにしかわからないし、大介君の気持ちは大介君にしかわからない。ただまぁ、キミが硯川さんを好きだというのなら協力するよ」
友はそう言い、歩みを再開する。大介はその後を追いつつ、叶のことを考えていた。
硯川叶。幼き日に、自分が顔の半分を燃やしてしまった女の子。彼女は気にするなと言ってはくれるが、やはり後ろめたさは消えるものではない。
彼女がもし「付き合え」と命令したのであれば、大介は大人しく従うであろう。同じ理由で「死ね」と言われれば死ぬ。勿論これは叶がそんなことを要求する女性ではないとよく理解しているからこその考え方でもある。
が、それは決して過剰な表現ではない。大介は叶のためならば死をも厭わない。その理由は、叶が好きだから――というよりは、やはり罪滅ぼしの意志の方が強いのが実際のところである。
「……とりあえず、しばらくは今のままでいいよ。恋愛とは俺にはまだよくわかんねーし」
「そうかい。まあ、高校生活はまだまだ始まったばかりだ。ゆっくり考えればいいさ。いいよ。いいと思う」
「お互いにな」
二人は笑い合い、浜辺を進んでいく。塩の香りが頬を撫で、波の音が妙に心地いい。これもまた、ふとした時に思い出す青春の一ページとなるのだろう。
ここで、道中に人がいることに気付いた。そこにいたのは小さな女の子と一匹の犬。女の子の方は黒を基調とし白いひらひらとした布のついた、子どものわりには大胆なビキニ姿。犬の方は金色の毛がとても暑苦しそうなゴールデンレトリーバーの成犬である。
「だぁーかぁーらぁー、アンタの嗅覚で久蔵を探せっつってんの! 何とか言いなさいよ!」
ご立腹な様子の彼女であるが、犬に対し何とか言えというのは無茶な話である。どうやら、女の子も人とはぐれてしまったようだ。大介達と同じ理由で、携帯電話も持っていないのだろう。
「おーい、両親とはぐれちまったのか?」
「あん?」
大介の呼びかけに気付き振り返った不機嫌そうな顔の右目は、ドクロマークの描かれた眼帯により隠されていた。
「両親じゃなくて連れよ」
「さっき言ってた“久蔵”って人か? 何なら迷子センターまで連れてってやるけど」
心配して提案したのだが、どういうわけか女の子の表情は見る見る不機嫌になっていく。そして、ふて腐れた表情のまま質問を投げかけてきた。
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