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千里眼は、シャギーの『戦わない』という意思を捉えていた。その決意を起点として、未来にも変化が起きたのだ。まだ不安定で確定しない未来ではあるが、今この場で出せる最善の選択は、シャギーに加賀屋を任せること。それだけは、自信を持って言える。
「……それじゃあ、やっぱり勝てっこないじゃないですかっ!」
「そんなことはないわよ、照子ちゃん。ずっと一緒にいたアナタなら、彼がどういう人間で、言技をどんなふうに使ってきたか、よく知っているでしょう?」
問われても、照子には千代が何を言いたいのか理解できない。そんな彼女を抱き寄せ、千代は安心させるように呟いた。
「大丈夫よ。今の社木は負けないわ」
◇
右手には斧。左手にはハンマー。加賀屋が瓦礫から精製したそれらの武器は、いずれも全長十五メートルは下らない。圧倒的な、力の塊。当たれば一瞬であの世行きだろう。
そんな状況にも関わらず、シャギーは冷静だった。焦らないどころか、頬が緩んですらいる。
「恐怖で気が振れたかァ?」
「いや、正気だよ。ちゃんと恐怖も感じている。でも、僕は冷静じゃなきゃいけない」
「そうかよォ。じゃあ、そのまま死んどけやァ!」
振りかぶったハンマーが、彼を押し潰さんと飛来する。シャギーは、ゆっくりと片手を天に掲げた。
そして、
「言技――“蛇足”」
付け足す対象は、空気。記憶を失った自分が見せたトリッキーな使い方だ。付与する余計なものは、特大のダソ君。蛇に足が生えている特大のぬいぐるみは、ハンマーの力を優しく包み込み無効化した。
「アァ?」
戦場には似つかわしくない可愛い物体の出現に、加賀屋の表情が曇る。ダソ君に隠れたことで完全に見失ったシャギーの姿は、いつの間にか自身の足元まで移動していた。
「――テメェ!」
足を動かすよりも、シャギーの手が鬼の足に触れる方が早い。
「蛇足」
付け足されたのは、またもやダソ君。付与する場所は、足の裏。バランスを崩した加賀屋の巨体は、その場に膝をついた。押し潰されないよう移動しながら、シャギーは自身の掌を見つめる。そして、確証と共に握り締めた。
これが言技“蛇足”か。シャギーは今、自分が生まれながらに持つその力を、本当の意味で理解した気持ちになっていた。
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