-其ノ陸-

46/50
前へ
/182ページ
次へ
「さあ、加賀屋君」シャギーは笑顔で告げる。「一緒に遊ぼうか」 「ほざいてんじゃねェぞオラァッ!」  激昂と共に、鬼の大きすぎる一歩目が動く。シャギーはすかさずその場にしゃがんで、地面に触れて蛇足を発現した。鬼の足の着地点に出現したのは――巨大なバナナの皮。 「――あァ!?」  ズルンと綺麗に足を滑らせた加賀屋は、武器を手放して地面へ手をつく。シャギーはその腕に触れることで、鬼の硬い拳を柔らかいマシュマロで覆った。 「随分と可愛い手だね」 「うるせェんだよォッ!」  巨大な手が地を削りながら、シャギーに掴みかかろうとする。だが、彼は冷静に手を自分の前にかざした。蛇足、発現。付け足す対象は、空気。  鬼の手が掴んだのは、蛇足が出した巨大なガラガラ。赤ん坊がおもちゃとして扱うそれである。 「大きな赤ちゃんもいたものだ」  シャギーは楽しそうに笑っていた。まさしく、悪戯である。加賀屋は本気で殺しにかかっているにも関わらず、相手は殺意など持たずに自分をひたすら翻弄している。文字通り、遊ばれていた。  付け足すものをある程度選択できるようになったシャギーの蛇足は、加賀屋にとってかなり厄介と言える。これだけコケにされれば、頭に血も上るだろう。しかし、そこは元少年ギャングのボスである。戦いにおける光明を見つける目は、肥えているようだ。 「……テメェよォ、攻撃できねェんだろ?」  加賀屋の読みは的を射ている。蛇足は悪戯という名目で好きに使えるようになったが、相手を傷つけようという意思の元ではやはり“攻撃”になってしまう。悪戯という認識で人が傷つくことを平気でやる人もいるが、シャギーの人格はそこまで汚くはない。 「確かに、僕はキミに攻撃できない」 「ハハハッ! やっぱりそうかよォ!」 「でも」シャギーは、笑顔を崩さない。「攻撃しなくたって、キミに勝つことはできるさ」  シャギーが、両手を正面に掲げる。発現した蛇足は、大鬼の周囲の空気に無数のダソ君を出現させた。柔らかなぬいぐるみで全身を包み込む。これも悪戯の範疇である。  威圧感のある瓦礫の鬼も、キュートなぬいぐるみに囲まれたならばファンシーになる。しかしながら、大鬼に搭乗していた加賀屋本人は既に脱出して地に降り立っていた。 「おや、出てきていいのかな? 僕に直接触れられたら、それで決着だと思うのだが」 「うるせェな。的が小さすぎて、デカいと殴りずれェんだよ」  加賀屋は鬼の肉体を瓦礫へと戻した後、そこから武器を精製する。お得意の金棒に始まり、刀、槍、槌、ハンマー、斧、鎌、モーニングスター、ヌンチャク、薙刀、トライデント。国も種類も関係ない。とにかく巨大な各種の武器を作り出し、破格の筋力で手始めに刀と槍を片手に一本ずつ掴み上げる。シャギーが包丁で与えた腕のダメージなど、微塵も感じられない。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9495人が本棚に入れています
本棚に追加