-其ノ陸-

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「せっかく武器を大量に作っても、二本までしか持てないんじゃ意味がないね。ないさ。ないだろう」 「そうでもねェぜ?」  細かい瓦礫が加賀屋の大きな背中を這い上がり、形を成していく。出現したのは、腕。その数、本人の二本と合わせて合計十本。  当然ながら、加賀屋は先程までの巨大な鬼の肉体を筋肉で動かしていたわけではない。彼の言技“鬼に金棒”の力とは、武器を形成できる物体の操作である。そして、戦いに生かせるものはすべからく武器と捉えることが出来る。鬼の肉体も然り、無数の腕も然り――これから生み出す物体も、また然り。  まるで千手観音のような見た目へと変貌した加賀屋は、さらに瓦礫を操作して束ねる。病棟まるまる一棟を倒壊させた今、瓦礫には困らない。加賀屋が生み出したのは、またしても鬼である。ただし、巨大ではなく、加賀屋本人と同じサイズのものだ。  合計で十体作られたそれは、操り人形のような動きで金棒を担ぎ上げる。  加賀屋はまだ、松ランクへ上がった自分の言技を使いこなしているとは言えない。シャギーが少しずつ自身の戦い方を学んだのと同じように、彼もまたこの戦いの中で言技への理解を深めつつある。 「さァ! おっ始めようぜェッ!」  指令を受けた十体の鬼が、一斉にシャギーへ向けて走り出す。シャギーは蛇足で地面にトリモチを付け足したが、瓦礫製の鬼はトリモチが張り付いた部分のみを切り離して止まらず特攻してくる。 「くッ……!」  シャギーは自分の正面の空気に、ダソ君の巨大風船を付け足した。それが膨らむ威力で自身の体を後方へ飛ばし、一斉に襲い掛かる金棒を回避する。彼の身代わりとして、風船のダソ君はパンと大きな音を残して弾けた。 「なーに休憩してんだよォ!」  立ち上がろうとするシャギーの頭上へ、加賀屋が人間離れした筋力による跳躍で飛び掛かる。十本の手が構える各々の武器の切っ先は、全てシャギーに向けられていた。  串刺しの未来から逃れるべく、シャギーは自分が尻もちをついている地面へ蛇足を発現する。出現したのは、噴水。勢いよく放出される水は、加賀屋の視界と攻撃を防ぐ。  今のうちに距離を取ろう。そう考えるべき場面であるが、シャギーは動かない。いや、動けないのだ。原因は、シャギーの足を掴む瓦礫でできた腕であった。  四方八方に散らばる瓦礫は、全てが加賀屋の支配下にある。加賀屋が強化された自身の言技の使い方を理解しつつある今、この戦場はシャギーにとってあまりにも分が悪い。 「ようやく捕まえたぜェ。手こずらせやがってよォ!」  加賀屋はシャギーの足を掴む腕に瓦礫を追加し、鬼へと変貌させる。肉体を手に入れたそれは、そのままシャギーの体を拘束した。さらには、シャギーの両手に瓦礫を集めて団子状に包み込み、空気や地面は勿論、加賀屋に直接触れることなどどうあがいても出来ないようにする。
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