―其ノ壱―

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「力になれなくてすんませんね」 「いや、ご親切にどうも。じゃあ、俺はこれで」 「あ、そうだ。ウォレ達も人探してるんですよ」  拳は思いついたように言うと、すぐに探し人である女子達の特徴を模索し始めた。  育の胸は素晴らしい目印ではあるものの、理将が厳選したこのビーチには他にも素晴らしい胸が溢れている。叶の包帯も特徴的ではあるが、遠目で見てわかりやすいものではない。基本地味な照子は、残念ながら論外と判断するしかないであろう。  となると、問う内容は一つである。 「髪の毛の赤い小さな女の子見ませんでしたか?」  そう。きずなの特徴である。元々『街とかで近くにいる友達に気付いてほしいから』というような理由で派手な赤色に染めている髪は、こういった場面でも役に立つ。この特徴が被る人間など、滅多にいないだろうから。 「あー、それってアレじゃねーッスか?」  男が指差す先に目をやると、そこではきずな達が海の中でビーチボールを使い遊んでいた。意外と近くにいたらしい。木を隠すなら森の中。水着美女を隠すなら水着美女の中である。 「お! いたいた! すんません助かりました!」 「じゃあ、俺は今度こそこれで失礼」 「あ、ちょっと待ってください」  去ろうとした男を、拳は再び呼び止めた。男が気怠そうな覇気のない目を向ける。 「なあ、ウォレ達がさっき会ったフェイルの子どもの方の言技って、確か人探しの能力だったよな?」 「ああ、間違いない。あのガキのせいで俺は体力が尽きるまで逃げ回る羽目になったのだからな」 「そのガキにこの人の探してる人を見つけてもらおうってか? 無理無理。俺達は少なくとも恨み買ってるだろうし、何よりあの鎧のねーちゃんと遭遇するのがこえーよ」  理将の意見はもっともであった。再びアキラと遭遇すれば、生きて逃げ切れる保証は何処にもない。 「なら、女子達と合流して訳を話して、女子達から頼んでもらうのはどうだ?」 「ふむ。確かにそれならいきなり斬りかかられる心配はないだろうな」 「おまけに何食わぬ顔で合流できる言い訳にもなるな。よし! それでいこう!」  自分の意見など聞かずに計画が固まってしまったが、男は黙ってそれを了承した。というよりは、拒否するのも面倒といった様子である。
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