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余程強い力で拘束されているからだろうか。月の光が薄暗く照らし出すシャギーはぐったりとして頭を垂れていた。
「得意の悪戯とやらはもう終わりかァ? 戦わなくても俺に勝てるんじゃなかったのかよォ!」
挑発に反応を示さないシャギーの姿に、加賀屋は勝利を確信して十本の腕を瓦礫へ戻す。そして、お得意の武器である金棒を手に取るとそれを担いだ。
「鉄骨ばかりアホみてェに出してた時の方が、ずっと強かったぜェ。つまんねェなァ。……まァいい。テメェを潰して、次は瀬野だァ」
シャギーの項垂れる頭を見下ろす加賀屋。ここで初めて――妙なことに気づくのだ。
大人しすぎる。拘束の力が強すぎて気を失っているのかもしれないが、もしかすると最後の一撃のタイミングを見計らっているのかもしれない。シャギーの蛇足は、手の拘束で完全に封じられたわけではない。まだ、瓦礫に何らかのものを付与することは可能なのである。そして、何が出てくるか全く読めないのが恐ろしい。
ならば、対策は簡単だ。拘束している鬼に、このまま絞め殺させればいい。自らがわざわざ距離を詰める必要などない。これで解決――いや、まだ何か大事なことを見落としている。
思い返すのは、戦闘の流れ。十本の腕で加賀屋が直接襲い掛かった際、シャギーが出したものは噴水。その水圧は加賀屋の攻撃を止めると同時に――僅かな間、彼の視界を奪っていた。
「――まさかッ!」
加賀屋が鬼を操り、項垂れるシャギーの髪を掴んで頭を起こす。その顔は、のっぺらぼう。マネキンである。
「チィッ!」
周囲へ目を向ける加賀屋が捉えたのは、背後からこちらへ特攻してくるシャギー。
「んな小細工で勝てると思ってんのかァッ!」
シャギーを瓦礫が包み込み、押し潰す。その際に発せられたメキッという音は、加賀屋の脳に新たな疑問を放り込む。コイツは――シャギーではない。
「詰みだね。詰みだよ。詰みだろう」
剥き出しの右腕に、何かが触れた。五指に込められた力が、シャギーに掴まれたのだということを教えてくれた。
「……さっき潰した方もマネキンかァ」
「ご明察」
結論から言うと、シャギーはほとんど動いていない。噴水に紛れて蛇足で瓦礫を生み出し、その中に隠れていたのだ。本物の瓦礫では潰されてしまうので、軽い素材の偽物の瓦礫である。これこそ蛇足の根本である“悪戯”目的の使い方と言えるだろう。
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