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シャギーは瓦礫の中から地面伝いに蛇足で加賀屋の後方に自分と同じ格好のマネキンを出現させた。そして、頃合いを見計らい地面に追加で氷の傾斜を付け足す。結果として、マネキンはその上を滑って加賀屋に突っ込んでいく形になった。
マネキンに動きを付け足せば、加賀屋は本物だと思い込んでくれる。その本物を仕留めたと思わせた瞬間こそ、最も隙が生まれる。
加えて、近距離で本物の自分に背を向けた状態を作り出せる。こうなれば、偽物の瓦礫の中から飛び出して加賀屋に直接触れるのは難しくない。
「で、どうするよォ?」
どう見ても、シャギーのチェックメイトである。しかし、この期に及んでも加賀屋の表情に焦りはなかった。
「わかってんだぜェ? テメェの言技は“攻撃”ができねェ。できるのはあくまで“悪戯”だけだァ。即ち、俺を傷付ける術は持ち合わせてねェわけだろォ?」
できたところで、精々拘束。それなら瓦礫を操る加賀屋は戦闘不能にはならない。まだまだ、いくらでも勝つ術はある。
瓦礫の偽物に隠れたのも、背後からのマネキンによるドッキリも、立派な“悪戯”であった。だが、どんなに追い詰めようとも、シャギーの言技が加賀屋の肉体に直接的なダメージを与えることはできない。
そんなことは、わかっている。わかっている上で、シャギーは怪しく微笑むのだった。
彼は人差し指を自身の唇に当てて、静かにするよう促す。
「耳を澄ましてみるといい。聞こえないかい? 僕はキミに対し、既に蛇足を発現している」
目を見開いた加賀屋は、言われるがままに耳を澄ます。確かに、シャギーの言う通り音が聞こえた。
カチ……カチ……カチ……。
一定のリズムで刻まれる音。連想するのは、時計の秒針。加賀屋がシャギーの手を振り解いて、自身の体を確かめる。だが、時計など何処にも見当たらない。体中に触れて異物を探すと、それは加賀屋の後頭部に付いていた。
硬く冷たい何か。それがカウントダウンでもするかのように、一定速度で動いている。後頭部という決して見ることのできない位置に付与されたそれは、一体何なのか。加賀屋の脳裏を過るのは――時限式の爆弾。
「単なる時計だろォ? 騙されねェぞォ!」
「おや? 僕はまだ何も言っていないよ。いないぞ。いないとも」
「喧しいッ! テメェの言技は、俺に爆弾なんてもんを貼り付けることはできねェ!」
言い切る加賀屋と対面するシャギーは「本当にそうかな?」と首を傾げる。
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