―序章―

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 かつて、この世界には神と呼ばれた少年がいた。  少年の名前は世村七郎。ありえないことを現実にする言技“石に花咲く”の使い手であり、言技が溢れる現在の世界を作り出した張本人。その力は全ての言技の頂点であり、ランクは最高峰である“松ノ上”に分類される。  少年の死から始まった言技世界で、五十年の月日が流れた。だが、未だに彼と同じランクに到達した発現者は生誕していない。つまり、現世界における頂点は“松ノ中”ランクとなる。  果たして、今後“松ノ上”の発現者が現れることはあり得るのだろうか。仮にあり得たとするならば、生まれたとするならば――その時は、世界がもう一度形を変えることになるだろう。  良くなるのか、悪くなるのか。それ以前に、この世界は形を保っていられるのか。それは未来のみぞ知るところである。  ここで一つ、疑問が生じる。  それだけの力を持っていた世村七郎は、果たして本当に死んだのだろうか。ありえないことを現実にできるのならば、一度死んで生き返ることも可能なのではないだろうか。何処からかこっそりと、自らが生み出したこの言技に溺れた世界を、虚ろな目で眺めているのではないだろうか。  だとすれば、この世界はいつまで活動を続けることができるのだろう。無駄に毎日を過ごしても明日が必ずやって来るのはいつまでだろう。彼はふとした瞬間に呟くかもしれない。 「地球が破滅するなんて、ありえない」  高をくくってはいけない。当たり前と思ってはいけない。永遠にこの世界が持続するだなんて、それこそ“ありえない”のだから。
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