―其ノ壱―

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「あー、あとゴールデンレトリーバーを連れてるッスね」 「それなら早く見つかりそうだね! ……えーっと」 「ん? あぁ、申し遅れて申し訳ねーッス。宮口久蔵ッス」  若干遅れ気味の自己紹介に、きずなは笑顔で返す。 「私は綱刈きずな。よろしくね! さぁ行こうっ!」  意気揚々ときずなは久蔵の探し人を見つけるべく歩き出す。理将達は自分達が考えた『フェイルの新に頼み探し出してもらう』という案を伝えようかとも思ったのだが、正直なところ好き好んで協力を仰ぎたい相手ではない。なので、地道に足で探すのも有りかと思い伝えようとはしなかった。  結論を言えば、その悩みも無駄でしかなかったのだが。 「ありゃ?」  歩き出してすぐに歩みを止めるきずな。視線の先では、右目に眼帯を付けた銀髪の少女が、金色の毛を靡かせる大型犬と見覚えのある男子二人を引き連れこちらに向かって来ていた。 「よ、よう!」と、大介が相変わらず包帯に包まれている手を上げる。その笑顔が若干引き攣っているのは、照子の言技と育のドラゴンテイルを恐れているからだ。 「ああーっ!!」  しかし、その下手くそな笑顔は千代の大声により吹き飛ばされた。彼女は犬の次郎七を引き摺るような形できずな達側にいる見慣れぬ男の方へと向かっていく。 「ちょっと久蔵! アンタ何迷子になってんのよっ!」 「は? 迷子になったのは千代先輩じゃないッスか。俺がかき氷買って帰ると待ち合わせ場所にいなかったんスから」 「あれは遠くにヨットが見えたからちょっと見に離れてただけで、その後すぐに待ち合わせ場所に戻ったのよ! そしたらアンタ何処にもいないし!」 「探してあげてたんじゃないスか。その間に勿体ないからかき氷二つとも食って、今若干腹の具合が悪いんスからね」 「みっともなく漏らせばいいのよっ!」 「漏らすと言えば、この前酔い潰れた千代先輩が」 「わー! ごめんなさいごめんなさいっ!」  どうやら、痴話喧嘩は久蔵に軍配が上がったようである。 「連れが迷惑かけたみたいで申し訳ねーッス」  大介とシャギーに、久蔵がペコリと頭を下げる。見るからに自分達より年上である久蔵は、千代のことを先輩と呼んでいた。そのことを踏まえると、きずなボディの千代が二十歳であるということは事実だと認めざるを得ない。
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