―其ノ壱―

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 一方で、そんな千代もきずな達に「うちの後輩が迷惑かけたわね」と礼を述べていた。『後輩』という単語に皆が首を傾げたため、ここでまた千代の二十歳アピールが始まる。 「へー、二十歳ねぇ」  呟いてから、理将が千代の胸と育の胸を見比べる。視線の動きに気付いた千代は、怒りのドロップキックをお見舞いした。 「ぐへぇ」と声を上げる理将へ、更なる追い打ちとして育の蹴りが炸裂する。理将の体は恥ずかしくて海に浸かったままの照子の頭上で綺麗な放物線を描き、そのまま海へと落ち見えなくなった。  ようやく生き埋め&目隠しから解放されたというのに、育の胸を見ると海の藻屑になってしまう。なんという恐ろしいトラップ。大介達は、いつまでその誘惑に耐え切れるのだろうか。  そんな魔性の胸とは異なり、やや慎まし過ぎる胸を持つ二人、きずなと千代の目線が交錯する。互いが互いの体を観察し合い、言葉では説明し難い仲間意識が生まれた両者はガッシリと硬い握手を交わした。 「千代ちゃん。よかったら海の家に行かない?」 「いいわね。アタシもかき氷食べ損なったし」  手を繋ぎながら、二人はまるで姉妹のように仲良くスキップで海の家へと向かって行く。女子一同も照子を海から上げて叶の着ていたパーカーを羽織わせ彼女の恥ずかしさを低減させると、きずな達の後を追った。 「俺らも行くか」と大介が呟いたところで、育が顔だけを彼らの方へ向ける。 「アンタ達は先にアレを回収してきなさい」  育が視線を送る遥か彼方では、理将が潮の流れに乗り遠くへと流されていく真っ最中であった。 「うおぉぉぉ!? 六原ぁぁぁァァァ!!」  友を助けるべく、男達は次々と海へ飛び込んでいく。その光景を見ながら、叶は口元を手で押さえクスクスと上品に笑っていた。 「叶さん、何がそんなにおかしいんですか?」 「ううん、何だが楽しくって」  叶は大介と同じく、これまでの青春の大半を火傷と向き合い過ごしてきている。部位が顔である叶の場合は、おそらく大介より酷い目にあってきたことであろう。そんな彼女が友達と海に行った経験があるはずもない。  だから、全てが楽しいのだ。ただこの輪の中にいるだけで、楽しくて楽しくて仕方がない。きっと、それは大介も同じ気持ちなのだろう。
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