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◇
「いくぞ。せーのっ!」
純和風の宿泊室。乱雑に敷いた敷布団の上に、大介達は芦長と理将の体を放り投げた。芦長は死んだように眠っており、理将は青白い顔で呻き声を上げている。
「あー疲れた」
「汗だくだね。汗だくだよ。汗だくですとも」
「先に温泉いこうぜ!」
「そうだな。何処かに浴衣があるはずだが……ん?」
四人分の浴衣を探そうとした速人が、妙な点に気付く。
「おい皆、おかしいぞ」
「おかしいって、風切が旅館に入る時女将さんに止められなかったことか?」
「オレのヘルメットネタのことではない。見ろ」
茶化してくる大介を一蹴し、速人は布団を指差した。そこにいるのは、アホ面で眠る芦長のみ。その隣に転がしたはずの理将の姿が見当たらない。
「何してんだよお前ら!」
聞こえてきたのは、その理将の声。復活した彼は浴衣を小脇に抱え、入り口の前に立って親指をグッと立てている。
「行こうぜ! 温泉に!」
その表情から察するに、覗きが目当てであることは明白であった。大介達は互いに顔を見合って力強く頷くと、それぞれ浴衣を手に温泉へと駆け出した。
◇
腰にタオルを巻き男湯の露天風呂へ突入した大介達五人の前には、予想外な光景が広がっていた。
男湯と女湯を隔てているのは、四メートルはあるであろう高い壁。作られている材も風情と覗き穴を併せ持つ竹などではなく、重厚感のある鉄である。
というか、学校のプールを囲んでいたあの壁と同じものであった。
「何故だっ! 何故神はウォレ達にこうも試練を与えるのだ!」
自然石が敷き詰められた床に手を付き、絶望に打ちのめされる拳。この特殊な鉄の壁は、言技を感知すると電気を流すという最新の防犯システムである。ここまで高価なものを設置するということは、余程言技使いによる覗き行為が頻発していたのだろう。考えることは皆同じということだ。
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