―其ノ壱―

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「終わりだ。覗けない温泉なんて温泉じゃない」と、理将が歪みきった心中を吐露する。  と、ここで大介があるものに気付く。 「……いや、アレを見ろ!」  指差す先に聳えるのは、温泉内の椅子と桶を全て結集して作られ壁の向こうへと続く階段。壁が電気を帯びていないということは、この階段は手作業で作られたことになる。  感服。尊敬。男の鑑。このような場所でまさかここまでの上級ヘンタリストに出会えるとは、夢にも思っていなかった。そして天国への階段を築いた主は、今まさに女湯を覗こうと階段を一歩一歩上っている。  それは、さながら花畑を賭ける少女のように幸せそうな笑顔を浮かべて。 「……何やってんだ剣岳」  階段を上る天吾と大介達との視線が交錯する。瞬間天吾はバランスを崩し、結構な高さから落下し床で頭を強打した。負傷した彼の上から、さらに崩壊した階段の残骸が降り注ぐ。  フェイルのメンバーが海に来ていた時点で、もしかしたら天吾も来ているのではないかと大介達も思ってはいた。思ってはいたが、このような形で出会うとは考えてもみなかった。 「大丈夫か?」 「キミに心配される筋合いはない」  大介から気遣いの言葉を受けた天吾は、何事もなかったかのように立ち上がり湯気で曇ったメガネを押し上げた。 「いや、頭から血出てるけど」 「これは温泉に浸かり血の巡りが良くなったからだ」 「意味わかんねぇよ」  言葉を交わしている間、大介達は終始ニヤニヤしている。 「勘違いしないでくれよ瀬野さん。ボクはアキラ達とは違い、あくまでキミを監視しに来たんだ」 「俺じゃなくて女湯を監視しようとしてたけどな」  大介の切り返しに、堪らず後ろの四人が吹き出す。羞恥心に耐え切れなくなった天吾はお得意の爆弾でも浴びせてやろうかと思うも、タオル一枚である彼がペンを温泉に持ち込んでいるはずもない。  最終的に「寝首を掻かれないよう気を付けることだね」と一生懸命いつものキャラを取り繕い、ふらつきながら男湯を出て行った。  思いがけず天吾の弱みを握った五人は、天吾を“一級階段建築士”の通り名と共に変態四賢者入りすることを前向きに検討することにした。そして、そんな彼の知恵を横取りし階段の再建に取り掛かる。
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