―其ノ壱―

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「え? もしかして久蔵さんって、けけけけ、警察の人?」  自分が投獄され、クラスメイトにニュースで「アイツはいつかやらかすと思ってました」と言われ、両親は泣き崩れながらそれでも息子の無実を信じている。そこまで飛躍した妄想に絶望を感じつつ、大介は尋ねた。 「いや、警察じゃねーッス」 「なんだ、よかったー」 「“七之侍”ってのに所属してるんスよ」 「……え?」と、大介達の声が綺麗にシンクロした。  ◇  上級言技使い犯罪者に対抗するため日本政府に選ばれた七人の松ランカー。通称“七之侍”。  彼らは日本が誇る最終兵器でもあり、ある意味では実在する正義の味方でもある。そして、瀬野大介は年甲斐もなく正義の味方が大好きであった。 「久蔵さん! 肩揉みましょうか?」 「いや、いいッスから」 「久蔵さん! コーヒー牛乳いります?」 「遠慮するッスよ」 「久蔵さん! 卓球やりましょうよ卓球!」 「えっと、今日は疲れたッスから……」  完全に懐かれてしまい、たじたじな様子の久蔵。大介も大介で、憧れのヒーローを目の前にして普段は見せることのないはしゃぎっぷりを見せている。  警察より上位の組織に覗き魔を逮捕させるわけにもいかないので、覗きは潔く取り止めることとなった。が、今の大介にとってそんなことはもうどうでもいい。彼にとって今のこの状況は、本物の特撮ヒーローが目の前にいることと相違ないのだ。 「久蔵さん! サインもらっていいですか?」 「いや、サインとかないんスよ」 「じゃあ握手! 握手してください!」 「はぁ、まぁ……」  差し出した手をブンブン振られながら、久蔵は「正体バラすんじゃなかった」と後悔していた。 「久蔵さんって、どんな凄い言技使うんですか?」 「いや、それは流石に機密事項だから」 「そうですよね! 俺ってば調子に乗り過ぎました! てへっ!」 「……うぜぇ」
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