―其ノ壱―

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 ごもっともな感想である。しかし大介は聞き取れなかったらしく「え? 何か言いました?」と純粋な少年の目を向けてくる。  久蔵は深い溜息をついてから、子供を納得させるような口調で話す。 「悪いけど、俺は疲れてるんスよ。だから休暇で旅館に来たんス。ここで質問攻めじゃあ、疲れ取れねーッスよ。わかる?」 「あ、はい。すみませんでした」  あまりに率直に言われたので、流石の大介も空気を読み引き下がる。 「それじゃあ、おやすみ」と言い残し去る久蔵の背中を見送る最中、大介の中にどうしても質問したいことが浮かび上がってきた。  それは、千代も七之侍のメンバーなのかどうかということ。もしそうなのであれば、憧れのヒーローが二人この旅館にいるということになる。  迷惑かもしれないとは思いつつも、それだけは確かめたいと思い大介は久蔵を追い駆けた。彼が廊下の角を曲がり、自分もすぐさま同じ場所を曲がった――のだが、そこに久蔵の姿はなかった。 「……あれ?」  そこは真っ直ぐに廊下が続いているだけで、人が隠れるような箇所も存在しない。何処かのドアを開けて入ったのだろうかとも思ったが、扉を開閉する音など聞こえなかった。 部屋の場所までは知らないので、これ以上は打つ手がない。大介はがっくりと項垂れながら、自分の部屋へと帰っていった。  ◇ 「うーん……?」  千代が目覚めると、そこは記憶にない和風の部屋であり、着ていたはずのゴスロリドレスは脱がされて代わりに浴衣を纏っている。  一体何が起こったのかを思い出そうとするも、酒を飲み過ぎたせいで気分が悪く上手くいかない。 「あ、起きた?」と、聞き覚えのある声がした。千代に歩み寄ったのは、同じ浴衣を纏う赤髪少女・きずな。その顔を見て、千代は自分が酔い潰れて運ばれ、わざわざ彼女が浴衣に着替えさせてくれたのだと理解した。 「迷惑かけたみたいね」 「いいよそんなの。私はお節介焼きだからねー」 「確かにそんな感じ」 「千代ちゃん水とか飲む? それとも自販機で何か……あ、ごめんっ!」
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