―其ノ弐―

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 育が腕を素早く振るい、ピンポン球を加速させ相手のコートへ叩きつける。それに反応した拳は、巨体を投げ出し球を相手のコートへ何とか返すことに成功した。  チャンスボールを迎え撃つのは照子。しかし、彼女の運動神経では打ち返すだけで精一杯。軽くラケットに当たった球は、転じて相手チームのチャンスボールとなった。 「もらったぜ!」  グリップを力強く握り、理将は女子相手に本気のスマッシュを繰り出す。育が伸ばしたラケットは、ギリギリのところで球を取り逃がした。  旅館といえば温泉。そして、温泉といえば卓球。ホールの一角に設置されている卓球台では、理将&拳VS育&照子によるダブルスの試合が行われていた。審判であるシャギーが、男子ペアのスコアボードを捲る。現在5対3で、男子ペアのリードである。 「いえーい!」とハイタッチを決める理将と拳。育は不満顔で腕を組み、照子は「足引っ張ってごめんなさい」と眉を八の字にしている。  負けた方がジュースを奢るという条件のこのゲーム、当初は女子チームの圧勝かと思われた。照子がハンデになるとはいえ、女子ペアには運動神経の塊のような元ヤンポニーテール改め元ヤンおかっぱ少女・九頭龍坂育がいるのだ。弾丸に引けを取らない彼女のスマッシュに、軟弱な男共は手も足も出ない――はずであった。  ところが、へっぽこ男子達はやたらしぶとく食らいつく。それもそのはず。卓球で激しく動けば、女子のアレが揺れるのだ。ましてや湯上りの浴衣姿である。激しく動けば動くほど、乱れに乱れる。ポロリもあるかもしれない。  理将と拳の運動神経は、通常時の三倍に跳ね上がっていた。 「頑張るねー男子」  のほほんとした声を発したのは、傍観している叶。アルコールを一口だけ摂取したがために笑い上戸になっていた彼女であったが、レンタカーの車内で見せた二日酔いの薬が意外なところで活躍し、素面に戻っている。  隣にいる大介はあくまで興味なさそうに「そうだなー」と答え、内心では男子ペアの活躍を応援していた。もっと粘れ、もっと揺さぶれと。 「それで、何の話だったっけ?」 「ん? ああ。だから、久蔵さんが七之侍だったんだよ!」  驚かせるつもりで言った大介であったが、包帯少女の反応は薄い。 「……七之侍って何?」
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