―其ノ参―

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 久蔵の言技により姿を消した大介と天吾。彼らは閉鎖された大空間に置き去りにされていた。  四方を壁に囲まれており、天井は異様なまでに高い。窓や出入り口は見当たらず、灰色の空間が漠然と広がっている。そこには文字通り、何もない。 「ここは何処だ?」 「わかれば苦労はしない」  大介の疑問に苛立ち交じりの声で答えると、天吾は壁にペンを叩きつけた。接触と同時に爆音が閉鎖空間に響き渡る。しかし、外壁には焦げ目一つ付いていない。 「……出入り口を探すしかなさそうだ」  爆発の結果からそう判断し、天吾は改めて空間全体を見渡す。何度見渡したところで、出入り口が突如として現れるはずもない。 「クソッ! こうしてる間にもきずなが危ねーってのに! 大体何で七之侍がきずなを狙うんだよ!」 「考えられる可能性を上げるならば、キミがギャングの抗争に首を突っ込んだ時の出来事かな」 「お前、何でそのこと知ってるんだよ?」 「僕はキミの監視のためにあの学校にいるんだ。知ってるに決まってるだろう」  呆れた様子でヒビの入ったメガネを押し上げると、天吾は話を続けた。 「シックルスだったかな? そこのボスを捉えるために、きずなは友達全員に助けを求めた。そうして広がった友達の輪は一万人に留まらず、街全体を巻き込んだ。シックルス確保に動いた人数は、おそらく十万人を軽く超えている」 「十万!?」  シックルスリーダー・市誠十郎が捕まった全貌を詳しくは知らないままであった大介は、その数に素直な驚きを見せた。それと同時に、天吾が言いたいことも理解できた。  大介は久方ぶりに思い出す。彼の住む街の暗黙のルール“綱刈きずなに手を出すな”。手を出したものは、街全体を敵に回すことになる。 メールを送るだけで十数万人を動かす少女。如何に言技のランクが低かろうとも、それは松ランク並の脅威に成り得るかもしれない。 「だからって、きずなが友達を犯罪に使うわけねーだろッ!」 「僕は可能性の一つとして話しただけだ。少しは落ち着いたらどうだい? 単細胞」 「なんだと!?」
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