―其ノ壱―

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◇  炎天下の砂浜に水着姿で仁王立ちする五人の男。その目はただ静かに水平線を見つめている。彼らは来たるべきイベントに備えて精神統一を行っていた。  深く深呼吸する度に潮の香りが鼻孔を刺激し、自分達が海にやって来たということをより実感させてくれる。海といえば水着。水着といえばビキニ。思春期の男達は、静寂の中で心地よさそうに時が訪れるのを待っている。 「……ついに見ることができんだな」  堪らず言葉を発したのは、つい数十分前まで車酔いで死にそうになっていた理将。女子の水着を堪能したいというエロパワーにより、今や完全復活を遂げている。 「ああ。この記念すべき日を変態四賢者のうち二人と共に迎えられることを誇りに思う」 「よせよ大山っち。今日は四賢者とかそういうのはなしだ。エロに上も下もない。全員が変態四賢者だ!」 「五人だけどな」  大介のツッコミも、今日ばかりは穏やかであった。ここで、彼は些細な疑問点に気付く。 「そういや、探偵は何処行ったんだ?」 「海の家でゴムみたいな触感の焼きそばを肴に早速飲んでいるさ。いるよ。いるのです」  シャギーが指差す先には味のある老朽感を漂わせている海の家があり、ビールジョッキを呷る芦長の姿を小さくではあるが確認することができた。 「海で溺れず酒に溺れるってか」 「おお、助かったぞ瀬野。お前の寒いギャグのおかげで少し涼しくなった」  手厳しい評価を下したのは速人。言うまでもなく海パンでフルフェイスヘルメット着用という奇妙な格好をしている。 「暑いなら脱げよ」 「断る。しかし、女性の着替えは時間がかかるものだとは聞いていたが、まさかここまで長いとは。ハードボイルドではない」 「遅くなって悪かったね!」  背後から聞こえたのは、きずなの声。ついに待ち焦がれた女性陣のご登場だと、男達は意気揚々と振り返る。  そこにいたのは、ボンッキュッボンならぬキュッキュッキュッというよく言えばスレンダー、悪く言えば寸胴体型の体を大胆にもピンクのビキニで包んでいる綱刈きずな――のみ。  男達の目が、一瞬で光を失った。 「ちょっとー。まずは感想を言うのが礼儀なんじゃないのかなー?」
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