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エスカはとても喜んでいたが、ラオはその女性が舌なめずりをしながら『どんなものでも調理します! 珍味きたれ』と書かれた屋台に向かって行くのを見ていたので、ほんの少し同情しながら哀れな神獣を眺めていた。
さて、そんなことを考えながらも通りを二人でぶらついていると、不意に声をかけられた。
「ねぇ君たち、俺たちと呑まない?」
「金は俺たちが出すからさぁ」
なんの因果か、目の前にいるのはいかにも遊び人っぽい五人の男達。どう見てもナンパだろう。
いかにも厄介そうだし、下手に酔わされて前後不覚に陥りでもしたらシャレにならないのが常識である。こういう手合いは無視するに限る。
のだが、
「えーっ!? いいんですかー?」
「え」
なぜかシャリルが食いついた。男達も思いのほかノリの良いシャリルを歓迎する動きを見せる。
これはマズイ。マズイ流れだ。シャリルの純粋さが仇になって面倒ごとが起こる流れだ。
「ちょ、ちょっとシャリル、こういうのは相手にしないほうが……」
遊び人やチンピラまがいの人間は概して好色なものなのである。酒が入ればいよいよ行動も読めなくなるし、いらない傷を負いかねない。ここは強引に通り過ぎてしまうべき局面だ。
それをわかってか、シャリルは神妙な顔で頷いた。
「大丈夫です、ラオさんの言いたいことはわかります」
「そ、そう? それなら、」
「ーー私はお酒に弱そうだからやめておけ、と」
今そこは問題ではない。
「けど心配いりません! 私こう見えてもお酒強いので! さぁ行きましょうラオさん!」
「え、ちょ、ちよっと!アタシはまだ行くとは一言もーー!」
ラオはせめてもの抵抗と足を踏ん張るが、あっさりとシャリルに力負けしてぐいぐいと引っ張られる。最後の悲鳴じみた叫びは、祭りの喧騒にかき消されてどこかへ消えていった。
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