560人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーーーーー
ーーー
ラオは眼前の光景が信じられなくて思わず目をこすった。
「ぷはーっ! ここのお酒美味しいですね! いくらでも飲めちゃいますよー!」
裏ぶれた酒場にあって圧倒的な違和感を放つ金髪の少女、シャリル。酒場の内部は祭りのほうに
客をとられてガラガラだが、いちおうゼロというわけではなく、彼女はそんな祭りより酒な連中の注目をこれでもかというほど独り占めしていた。
おそらく外見も理由の一つだが、主に目立っている要因はシャリルの足元だろう。そこには酔いつぶれたナンパ男達が残らず転がっていた。
何がどうなってこうなった。
ラオはこめかみに手を当て、この状況に至った経緯を思い返した。
遊び人達に声をかけられ、酒場に連れ込まれる。
数杯呑んだあと男達とシャリルが飲み比べを始める。ちなみにこのとき、ラオは酌に徹していた。
で、しばらく呑みつづけているうちに男達が一人、また一人と酔っ払って気絶するように寝始めて、ついさっきナンパ男達最後の一人がひっくり返ったのだ。ちなみにシャリルは最後までまったく酔っているように見えなかった。
「アンタどんな身体してんのよ……」
「えへ。私お酒強いんです」
どこか得意げに言うシャリルは顔が赤くなってすらいない。呑んだ分の酒は一体どこに行ったのだろうか。ラオから手元に視線を戻し、嬉しそうにグラスの酒をあおる。
「あ、なくなっちゃいました……すみません、もう一本もらえます?」
店主に声をかけるシャリルはどこか無邪気さを感じさせる。あれ、もしかしてナンパされたことにすら気付いてないんじゃないかしらとラオは戦慄した。
男達が言った、『金は俺たちが出すから』という言葉も額面通りに受け取っているようで、シャリルはすでに二十本近い瓶を空にしている。この娘かこんなに大酒飲みだったとは……とシャリル本人を除く酒場じゅうの全員の考えが一致した。
最初のコメントを投稿しよう!