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「楽しそうね、シャリル」
ラオにはシャリルが食べ歩きのときよりも生き生きしているように見えていた。祭りの満喫は人それぞれかーーと、何の気なしにかけた言葉だったのだが、シャリルは酒を流し込む喉の動きをピタッと止めてゆっくりのグラスから口を離した。
「……はい。楽しいですよ。スイさんやキョウさんほどじゃないかもしれませんけど、私もこういう明るい雰囲気は好きですから」
「……シャリル?」
その時、大通りから『おぉーっ!』というどよめきと歓声がが聞こえてきた。そのせいで店内の客は野次馬根性でも発動させたのかそそくさと席を立ち、大通りに向かっていった。期せずして、店内に残っているのはラオとシャリル、酔いつぶれたナンパ男達だけ。
シャリルはそれらすべてが見えていないように、手元のグラスの氷を見つめながら穏やかに笑っていた。
「本当なら、このお祭りは開催されないはずだったんですよね。街もボロボロでしたし、何よりエンテさんがーー街のみなさんにとって大事な方が亡くなった直後にこんな催しをやろうなんて、誰も言い出せなかったと思います」
「まぁ、そうね」
ラオには、シャリルの言いたいことがまだ見えてこない。
ラオの見る限りシャリルが酔っているとは思えなかったが、普段よりも少しだけ、今の彼女は饒舌だった。
「それを可能にしたのは、スイさんです。あの時ーーエンテさんが亡くなったとき、私は何もできませんでした。何をしたらいいのかもわからなくなって、座り込んで。住民の方々に混じって暗い顔をすることしかできなかったんです」
グラスを揺らすシャリルの声に、わずかに自嘲が含まれた。ラオもその時のことを思い出して苦い顔になる。
「仕方ないわ。人死にが出たのにいつも通りにいられるやつなんて、そういないもの」
シャリルがわずかに大きくなった声で言った。
「けど、スイさんだけは違いました。あのひとはあの場でたった一人、未来を考えて行動していたんです。普通に考えれば、確かにバート君は同情されるでしょうが、それ以上に自分自身や他の人から一生責められ続けるはずだったんです。その未来をスイさんはあっさりと壊してしまいました。バート君を気絶するまで痛めつけて、罰を与えて。あれを見て、バート君をあれ以上責めようと思う人なんているわけないですから」
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