後の祭り

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その姿はどこか、熱っぽく憧れの人を語るようにも見えた。 「私、どうしてそんなことをできたのかって、スイさんに訊いてみたんです。そしたら何て言ってきたと思いますか?……『あの暗い雰囲気が気に入らなかったから』って言ったんですよ、あのひと。私にはできないやり方で、人ひとりを救っておいて、謙遜でもなんでもなく自分本位な理由を言ってきたんです」 まくしたてるようにそこまで喋ってから、シャリルはほうっとため息を吐いた。もうそこに憧れの色はない。どちらかといえば、顔には呆れたような表情が浮かんでいた。 「……不思議なひとですね、スイさんは。私を奴隷商人から救ってくれた時もそうでした。どこまでも自分のことしか考えていないのにーーそれでも、こうやって周りを変えてしまうんですね」 ラオはあっけにとられたようにシャリルを見ていたが、ここであることに思い至った。まさかとは思いつつ、半ば冗談のように言ってみる。 「……もしかしてシャリル、アイツに惚れたの?」 「え」 言った瞬間、ボンッ! と音がしそうなくらいのスピードでシャリルの顔が真っ赤になった。ブンブンと突き出した両手を振って否定のポーズをとる。 「ち、違いますよ! さっきのはその、違うんです! 言葉のアヤでーーってそもそも私そんなこと言ってないですよね!?」 酒瓶二十本空けても平気だったくせに、とラオはその微笑ましすぎる反応に吹き出しそうになるのをぐっとこらえた。からかい甲斐がありすぎる。 ナンパに気づかなかったことといい、初心すぎるのではといっそ心配になるほどだ。……実のところ、初心さではラオも負けていないのだが。 ともあれこの場はラオに主導権があった。ちらっと視線の端にあるものを捉え、そちらを指差す。 「まぁまぁ、その辺りのことはアイツ本人に言ってあげなさいよ」 未だにわたわたとテンパっているシャリルもつられてそちらを向けば、窓の外にはすっかり見慣れた黒髪と茶髪の二人組がこちらに向かって歩いてきていた。
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