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「企みもなにも事実でしょうが! 言われた身にもなりなさいよこの馬鹿!」
そう言うラオの顔はまだ赤い。うん、本当に申し訳ない。
スパナを構えつつにじり寄ってくるラオから距離をとりつつ、努めて落ち着いた声を出す。
「わかった。オーケーとりあえず落ち着こう。まずはその武器をしまって大きく深呼吸だ。あ、赤い色は見るなよ?」
「なんでアタシの扱いが闘牛なのよ。チェーンソーにランクアップさせるわよ」
「もうふざけません」
「ったく……」
そう言ってラオはようやくスパナをしまった。あー怖かった。最近俺の口が勝手に喋って困る。
「っと」
ここで後ずさりしていた俺の足が何かを踏んだ。見ると、それは飲みつぶれたチンピラ。
俺が踏んだことで、その目がぱちっと開いた。おや、おはようございます。
「あぁーー!!」
なんと声をかけようか迷っていたら、男は絶叫しながらバネじかけのように跳ね起きた。
その声が酒場の中で反響し、残りの男たちも起き上がり始める。
あ、何か面倒ごとの予感。
隠す気ゼロで嫌そうな顔を浮かべる俺には目もくれず、最初に起き上がったゴロツキAがキョウを指差して叫んだ。
「てめぇ! この娘たちのなんだ!」
「……何か、とは? ただの連れだが」
キョウが無表情のまま応じると、ゴロツキAは視線をキョウのもつ『ミールウス最強』と書かれたハチマキに移し、そこですべて合点がいったとばかりに目を見開いた。
「てめぇ、これまさかーー美人局かっ! 女で釣って、あとから男が出てきて金巻き上げるっていう……」
それを間に受けて、他のゴロツキも『なに? 』『美人局だぁ?』と柄の悪い声を上げ始める。
対照的にラオやシャリルは状況についていけないとばかりに瞬きを繰り返し、キョウも顔に『何言ってんだコイツ』と貼り付けてある。
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