ハード・ハイキング

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翌日。 冴え渡るような青空の下、俺は早朝から村の入り口にいた。入り口といっても、そう大層なものじゃないけど。『ようこそオルビド村へ』と彫られた木製のアーチがあるだけだ。 こんな山奥の村にようこそも何もないように思うけど、実はこのオルビド村、観光地として地味に有名だったりする。自然とか、特産品を求めてやってくる観光客がけっこう多いんだよな。実は、俺たちが掘った温泉もそこそこの利潤をもたらしている。 ちなみに、この利潤がなければ村長の家からハンコを盗んだことを許してはもらえなかっただろう。村とお金が大好きな村長に感謝だ。 しばらくぼーっとしていると、遠くの方に人影がふたつ現れた。片方は背が高く、もう片方は長い髪を腰辺りまで伸ばしている。 遠目でもわかる。キョウとラオだ。 向こうも俺に気づいたのか、背の高い方ーーキョウが軽く手をあげてくる。俺も手を振って返した。……ただ、ラオには微妙に目を逸らしてしまった。くそ、俺のヘタレ! アーチの傍で待つことしばし。キョウとラオの二人と合流した。 「よう、スイ。待たせたか?」 「い、いや、そんなに待ってねーよ」 キョウは動きやすさ重視の軽装。装いらしい装いと言えば、麻の黒い上着を羽織っているくらいだろうか。その上にいつも通りの無表情を乗っけている。シンプルながらカッコよく見えるのが妬ましいが、まぁそれはいつものことなので良しとしよう。 問題はラオだ。あ、いや、服装が変ってわけじゃない。むしろ、薄黄色のインナーに白のカーディガンという大人しめの服装は、儚げな印象の(実際は虚弱なだけだが)ラオによく合っている。 けど、表情がね? 「よ、ようラオ。えっと……ご機嫌いかが?」 「……良いわけないでしょ?」
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