後の祭り

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叫ぶと、いつの間にか広場に集まっていた住民の群れのあちこちから同じような叫び声が飛んだ。シャリルがびっくりしたようにその様子を凝視している。 「ど、……どうしたんですか、スイさん。皆もやってる……」 俺はそのシャリル反応が面白くて、つい吹き出してしまった。笑われたシャリルが頬を赤くしながらじとっとした目を向けてくる。 「……笑うのはちょっとひどいと思います」 「ん? あぁ、ごめんごめん。俺たちの間じゃ、花火が上がるとこうやって叫ぶんだよ」 「そうそう。この土地の風土ってやつやね。実はこれ、かなり昔からある由緒正しーい風習なんやで?」 エスカが補足してくれた。けど、へぇ。これがそんなたいそうなものだとは知らなかった。 「とりあえず、やってみろよ。手をこうして口の周りに持ってきて、花火が上がるのを待ってーー今!」 「たっ、たーまやーっ!!」 「「たぁぁまやぁーーっ!!」」 火薬が弾ける音に合わせて、広場の至る所から声が上がる。 ほとんど全力で叫んだらしいシャリルの背中を「よくできました」と叩くと、照れたように笑ってきた。 花火に照らし出される人々の顔は、どこを見ても楽しそうだ。俺もつられて笑ってしまった。 どおんどぉんと続けて花火が上がる。赤、緑、青に黄色。しばらく眺めていると、次第に一発あたりの感覚が短くなってきた。 花火大会の終わりが近づいているのだろう。俺は穏やかな笑顔を浮かべながらそれを鑑賞している茶髪の悪友と赤毛の友人に声をかけた。 「そろそろ花火も終わりそうだし、お前らもただ見てないで一回くらい叫んどけよ。またしばらく見れなくなるんだから」 言うと、案の定二人は渋面を作った。 「……俺の人格で花火に向かって叫べと?」 「アタシもさすがにそんな体力は……」 「わかったわかった。じゃ、さんはい」 「「おい、俺(アタシ)はーー」」 丁度よく、一際大きな音を立てて花火が上昇して行く。それが弾けたとき、五人分の花火に向けた声が重なった。 一人は誰よりも楽しそうに。 一匹はそれに負けないくらい大声で。 一人は吹っ切れたように嬉しそうに。 一人はどこか恥ずかしそうに。 一人はいつもよりほんの少しだけ大きな声で。 やがてその声も、花火の轟音も、夜空に溶けて消えて行った。
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