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楽しい催しの常で、『終わり』が運んで来るのは、まず達成感。そして、終わってしまったという、達成感と同じくらいの虚脱感。快楽主義の俺とて、いや快楽主義だからこそというべきか。その虚無感も強い。
民衆たちがそれを各々感じ取り、広場から人が流れ出ていく。俺はんんっと手を突き上げて伸びをした。
「んじゃ、撤収するか」
そうだな、とか、せやね、と俺以外の面々から賛同が得られたので、俺たちは誰からともなく宿へと足を向けた。
「けど、ちょっと意外です」
その道すがら、人ごみにもまれつつシャリルが俺に話しかけてきた。
「意外って、何が?」
「スイさんなら、てっきり『誰よりも長く祭りにいてやるんだ!』って言うかと思ってたので」
「あぁ」
言わんとすることはわかるが、わかってねぇなーシャリル。楽しいことってのは、止めどきが大事なんだよ。じゃないとそのうち飽きて苦痛になっちまうから。
しかしそんな快楽主義のアレコレを語っても理解は得られなさそうだ。ここはもっとわかりやすい理由を言っておこう。
「そんな大した理由はねえよ。ただ、ほら。明日のこともあるしな」
「明日のこと……あぁ、そうですね」
シャリルが納得したような声を出した。「だろ?」と適当に相槌を打っておく。
俺たちは、明日この街を出る。
そもそも村を出る時点では、ミールウスなんて単なる中継地点としか思っていなかったのだ。それが何の因果か、一週間も滞在してしまっている。諸事情あったとはいえ、そろそろ潮時だろう。
「……何だか、寂しいですね」
「良いんだよ、それで」
シャリルの誰に向けられたものでもない呟きを、俺は小さく肯定した。
それでいい。祭と同じだよ。良い思い出に満たされたうちに、別れを告げるべきだ。
俺はそう頭では思いながらも、おそらくシャリルと似たような思いを胸に抱えたまま宿への道をせいぜいのんびり歩いた。
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