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翌日。俺たちは感傷もそこそこにミールウスを出発した。
道中何が起こるかわかったもんじゃないので、出発時間はとりあえず早朝である。今日中に次の宿泊地に着かないと野宿を嫌がってふてくされそうなやつもいることだしな。
そのおかげが、風が気持ち良い。空が明るみ始めた頃の風は、一日のいつよりも涼やかに感じる。起きてからずっと俺の頭上を旋回していた睡眠欲は、気付けばどこかへ吹き飛んでいた。
もっともこれはあくまで俺の話。俺の近くには、涼やかな風も何のそのとアクビを連発している顔がいくつかあった。
「おいキョウ、いい加減目ぇ覚ませって。歩きながら寝ようとすんな、おーい」
「……何度言ったらわかる。薪割りをするときは斧をーーはっ!? む、スイ。何か呼んだか?」
「呼んでねーよバカ。いつまで寝ぼけてんだよ」
このザマである。今頃になって酒が効いてきたのか、少し後ろをてくてく着いてくるシャリルもちょっと歩くたびに首がかくんと落ちていた。
「……む、むぅ……眠いです……」
「ちょっとシャリル、大丈夫? いきなり気絶とかしないでよ? アタシ人をおぶって歩いたりできないんだから」
「安心せえオネェサン! その時はこの僕が人肌脱ぎますさかい!」
「アンタに任せるくらいならアタシが意地でも運ぶわ」
そのシャリルを隣で気遣うラオは意外なことに朝に強いらしい。すでに通常運行になっていた。え? エスカ? あいつが元気じゃない時なんてあるの?
「……薪を割った後はあそこの木材をーー」
「そんでお前は夢の中で何を造ろうとしてんだ。起きろっつーの。転ぶぞ」
目を離した途端またわけのわからないことをつぶやき始めたキョウの背中をちょっと強めにどやしつける。しかし案の定というか何というか、また数秒でふらふらし始めた。
ったく、どっかにこいつらの目を一撃で覚まさせるようなものはないのか。
だが生憎と、前方には単調な馬車道がまっすぐ通っているだけだ。後ろにはついさっきまで滞在していた街、左右には生まれてから今までずっと見続けてきたような山の稜線が視界の端から端まで伸びている。
ま、そう都合のいいものがあるわけねーよなと思いつつ俺は手を上に向けて状態をぐぐっと伸ばし、何の気なしに白み始めた空を見上げ、はるか上空に俺は得体の知れないものを発見した。
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