後の祭り

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「何だあれ?」 山のてっぺんよりも、雲よりも高いところに黒い帯のようなものが漂っている。……いや、あれは飛んでるのか? 目を凝らしても、細かい部分はさっぱり見えなかった。こういう時は年長者に聞いてみよう。エスカに声をかけ、 「なぁエスカ、あれ何だと思う?」 「ん? あれって?」 無言で真上を指差す。エスカは素直にそちらを向いて、ぱちぱちと瞬き。前足で目をゴシゴシと擦り、信じられないものでも見たかのように空中を漂う帯を二度見してーー 「ぎゃああぁぁあああーっ!?」 絶叫した。俺とラオがびくっと震える。 「な、何だエスカ!? どうした!?」 「うわー! うわーっ! ちょおスイはん、オネェサン! 寝ぼけとる二人早よ叩き起こして! あれ、『セイリュウ』や!」 「わ、わかった!」 エスカが短い前足をぶんぶんと振って命じてくる。どうやらただ事じゃなさそうだ。俺はほとんど手加減なしでキョウの背中を蹴っ飛ばした。 「……何をする」 たたらを踏んで、ようやく覚醒したらしいキョウが殺気のこもった目で睨んできた。いや、やれって言われたから。 シャリルの肩を揺する、なんてまだるっこしいことをしていたラオをどけて金髪を引っ叩くとこちらも目を覚ました。頭を押さえて目をパチクリさせているシャリルを放置しエスカに向き直ると、神獣タヌキはかつてないほど興奮した様子でさっきと同じことを言った。 あの帯は『青龍』だ、と。 キョウの目が見開かれた。 「『青龍』だと!? あれは目撃情報が皆無の伝説的神獣だろう! なぜそれがこんなところにいる!」 「僕もわからん。けど、あれは間違いなくその『青龍』や。百年ぶりに見たでぇ……」 エスカは今でも信じられないというふうに何度も上空を見上げ直していた。キョウも無表情ながら、ごくごくわずかに興奮している気配を発している。 え、何? そんなにレアなのかあの帯は。 俺があっけにとられていると、覚醒したシャリルが例の先生モードになってラオに簡易講義を開いていた。 「ーーですから、青龍っていうのは春先の東域で数回目撃証言があるだけで、生息地に生態から能力まですべてが謎なんです」 「へ、へぇ……けど、あれってそんなに珍しいものなの?」
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