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ゼーレは現在街開発推進中である。
街の発展に伴い、人々は住みよい家を求めて引っ越すようになった。そのため、一昔前は居住区だった地域が現在はうらぶれている。人々は変化を優先し、元の場所を再利用することにまで意識が回らなかったのだ。
けれどそれも時間の問題だろうと、フロリデは考えている。
去年就任したばかりの副町長に押され気味だが、穏健派の町長は細かいところに気が回る人物である。街の敷地を広げることで街人の気持ちをひとしきり高めた後、きっと捨てられた居住区の再開発にも乗り出してくる。
つまり、ここらで好き勝手していられるのも今の内だ。
元居住区の隅。ここはフロリデや一部のゼーレ住民にとって、都合のよい集合場所だった。
人のいなくなった民家の軒先の下、色々な情報を交換するのが彼らの日課だ。今日の場合は、民家のひさしが丁度よい雨よけになる。
「最近町長派と独立推進派の仲が険悪になってるってさ」
「はあん。どーせ先月の森の一件のせいだろ? あの森はゼーレを独立させるための鍵のひとつだったしなァ……独立派が怒り狂っても驚かないぜ」
「そうそう。案の定保護協会にしつこく書状を送ってるみたいだよ。協会はまるで聞く耳を持っていないようだけどね」
「愉快だねぇ。エルレクの御大と副町長は犬猿の仲だろうよ。あいつらのケンカは傍から見てる分にゃいい暇つぶしだ」
「よしなよ、町長が心痛で倒れてしまうよ」
「はん。長のクセに人が好すぎんだろ。ところで」
フロリデ姐さんよ――と、ゴードは緩慢な動作でフロリデを見た。
まるで干からびた動物のごとく痩せ細った男だ。骨と皮だけ、という表現がとても似合う。もう三十は軽く過ぎているだろう――ひょっとしたら四十も越えているのかもしれない。薄いひげを撫でながら目を細める。
「ちょいと興味があるぜ。森が枯れたのはアークのせいなんだろが? どうしてそれが表沙汰になってねえんだ」
男の隣でもう一人、こちらは十代半ばにもなっていない少年クルトが、つぶらな瞳でフロリデを見上げている。
知らないよ、とフロリデは吐く息とともに言い、肩にかかった豊かな黒髪を後ろに跳ねやった。
「その森の一件とやらァ、アタシは全く噛んでないからね。どうせ協会側が処理をミスったんだろ」
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