第一章 雫は波紋を起こす

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「でも、大ポカすぎやしないかなフロリデ姐。あの一件、やろうと思えば全部アークのせいにして、犯罪人として精霊保護協会全体でアークを追うこともできたと思うんだ。むしろ大喜びでそれをやってもおかしくないよ」  クルトが利発な目を瞬かせる。「確かにな」と、ゴードが笑う。 「まァね。でも、どうやら協会は異様にアークを警戒して近づきたがらない部分があるからねェ――」  ま、助かるよとフロリデは細い腰に両手を宛ててにんまりと笑った。 「アタシのアークに手を出そうってンなら、アタシも黙っちゃいられないしね」 「そーいやヤツに結婚迫るのもうやめたんか?」 「やめるわけないだろ」 「……いかにフロリデ姐といえども、さくっと諦めた方がいいことが世の中にはあると思――」 「おや生意気なことを言うのはこの口かィ。フロリデ姐さん特製の精力活性剤(註:激辛)の実験台に丁度よさそうじゃナイか」 「嘘です僕が間違ってました許してください」  全身を縮めて拝む少年。隣で骨男がヒッヒッと愉快そうに引きつり笑いをした。  民家の屋根を伝った雨がはたはたと彼らの傍らに落ち、リズムを刻んでいる。  ふいに冷たい風が吹き、フロリデはコートの襟をきつく寄せた。 「寒いねェ」  吐く息が白く染まる。軽く空を見やって肩をすくめた彼女は、すぐに視線を骨男と少年に戻した。 「で、他に何かあったかィ?」  拝むのをやめたクルトが、歳相応に拗ねたような顔で答えた。 「特別何も。……アラギのオッサンが相変わらず好き放題してるから、要注意かなってくらい」 「そらいつものこったろ。つーか、ヤツはまだおっさんって歳じゃねえぞ、言ってやるな」 「オッサンだよあんなきったない無精ひげ。いつも思うけど似合わないよねあのオッサン。ひげは男のステイタスとかサムいコト考えてそーだよね。ただでさえ怪しいんだからせめて身なりは人並みにしといてほしいよね、もう歩いてるだけで犯罪レベルだから警備隊に捕まってもいいと思うんだ」 「……よっぽど仕事の邪魔されてンのかィ」
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