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「邪魔ってレベルじゃないよあのオッサン! いっつもいっつも僕の情報網を荒らしてくれて、しかも何を基準に動いてるのかさっぱり分かりやしない! おまけに神出鬼没とか、もう迷惑すぎるからそのうち精霊術失敗させてどこか遠い世界へ飛んでっちまえあの腹の底まで真っ黒不審人物!」
少年は両手を鉤爪の形にしてクワアッと目力を放つ。ゴードはこらえきれずに笑い出した。ひーひーと苦しそうな骨男の呼吸を聞きながら、フロリデはやれやれと腕を組んだ。
「ま、アラギのやつに要注意なんてのァ今に始まったこっちゃないサね。今日はとりあえずそんなトコか。独立派にしろ精霊保護協会にしろ不安定だから、刺激するようなことは避けた方がいい。みんなに徹底させておいで、二人とも」
合点、と苦しそうな息の合間にゴードが応じた。
むすっとしたままのクルトを苦笑して見たあと、フロリデは改めて空を見上げた。
まだ昼間だと言うのに、雨雲に覆われた空はどんよりと暗い。ゼーレでは本当に珍しい空の模様だ。陽気で気まぐれなゼーレの住民たちにも大きく影響を与えるかもしれない――
「困ったもんだネェ」
フロリデは深くため息をついた。
ベルティストンからさらに西。〝その他〟と揶揄される国々からやってきた彼女らにとってゼーレが住みよい場所になる日は、まだまだ遠そうだ。
だが諦めてこの街を出ていくつもりもない。「そろそろ帰ろうかね」とフロリデはコートを手で払って整えた。
「何かあったらいつでも連絡するンだよ。アタシらァ人数が少ない分、速さと密さだけが取り柄なンだ――ン――」
何気なく周囲を見渡した彼女は、ふと人影を見つけて怪訝な顔をした。「何だィ、あの子」
つられてゴードたちがフロリデの視線をなぞる。その先に――
やや遠く、人気のない殺風景な元居住区の横道からふらりと現れたのは、若い娘だった。雨をまともにかぶりながら、おぼつかない足取りでこちらに向かっている。
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